mark rothko/マークロスコヴィッツと色あるいは形についての考察



結局のところ、一番好きな画家はだれなの?と聞かれたら、迷わずこう答える。
マークロスコです、と。

最初にロスコの絵を見たのがいったいいつだったのかは思い出せないが、以来ずっと惹かれ続けている。
彼の絵画の魅力は何なのだろう?

image

MARK ROTHKO

untitled c.1951-2

tate gallery/london

imitation painting by

macintosh/gento.m.a.t.


ロスコの絵は一見してキャンバスに色が塗られているだけだ。
確認できる形も四角だけ。
そんな絵のいったいどこに、あれほどの魅力が備わっているのか??

パリ市立近代美術館にロスコのレトロスペクティブ(回顧展)を見に行ってきた。
ロスコの回顧展に行くのは、佐倉、MOT、に続いて3度目である。
いくら美術館によく行くといっても。一人の作家の大規模な回顧展に3回も行ったのは、ロスコだけだ。
そのロスコのレトロスペクティブなのだけれど、まず入り口に行列が出来ていてビックリした。
普通、現代美術の展覧会などガラ空きである。館内に数人しかいない、などということもまれではない。なのにこの混みようはなんだ。!!

それに、見る人が一枚の絵を眺める時間がやたらと長いのだ。
僕も好きな画家だと、かなりゆっくりと時間をかけて見る方なのだけれど、自分と同じスピードで進む人が多い。
みんな一様に腕組みをしたり、頬に手を当てたりしながら、じっくりと見入っている。
こんなことは、今まで百数十の美術館に行っていて初めてのことのような気がする。
ロスコの魔法にかけられたのは僕だけではなかったのだ。

では、なぜ彼の絵画がここまで人を引き込むのだろう?
僕はバーネットニューマンやイヴクラインなどの色と形だけのアブストラクトペインティングも好きだけれど、彼らの絵とロスコの絵は何かが決定的に違っている。
それはぶれやにじみであり、色そのものの魅力であり、さらに、上に置かれた色と下に置かれた色の関係性の魅力でもある。

具体的に述べる。
彼の絵は、常にある色の上に違う色が置かれている。
上に置かれた色の下の色は、横にはみだした形で、あるいは上の色を透かした形で存在を現している。
僕等は上の色を見ながら、下の色の存在を感じないわけにはいかない。
それは音楽でいうところの和音やハーモニクスや通奏低音のようなものかもしれない。

ロスコの絵は非常に大きい。
ロスコの絵の前に立つと、あたかも自分自身がロスコの絵の中に含まれているような感覚に陥る。
そしてこう思う。

この色はなんて暖かな色なのだろう。

なんて悲しい色なのだろう。

なんて優しい色なのだろう。

なんてさみしい色なのだろうと。


その色は夕陽に染まった山の色だったかもしれない。

雨に霞んだ雲の色だったかもしれない。

恋人の肌の色だったかもしれない。

暗い夜の海辺の色だったのかもしれない。

あなたは心の震えを感じ取ることが出来る。

滲んだ色によって...

さて、マークロスコヴィッツはロシア系のユダヤ人で、アメリカに亡命してきた人だ。
第二次大戦後、彼は滲んだ形の良く解らない絵を描き始める。

あたかも、消えていった同胞へのレクイエムのように...

それは暖かく、悲しげで、優しく、さみしげな色のレクイエムだ。
全ては溶けて、色になったかのようだ。

1960年代半ばになると大動脈瘤を患ったロスコは、それまでの暖色系中心の絵から、グレーや黒などの重たい色を好んで使うようになる。近づいてきた死を見つめるように。

彼はアメリカの南部に非宗教的な教会、ロスコの絵の中にたたずむことの出来る空間、ロスコチャペルの建設を決意する。
しかし、全てが完成しないまま彼は自殺する。1970年のことだ。
なぜ彼は死んでしまったのだろう??

1969年、彼の最晩年の作品を見ていると、何となく彼の気持ちが分かるような気がする。
彼の最晩年の作品は、それまで真っ黒に近い画面だったのが、上下二つに色が分かれ、黒とグレーになった。

それまでロスコは黄金分割ともいえる7対3の割合を好んで使っていたのだけれど、最後の作品は5対5になっている。

それまでの数年間の暗闇を経て、彼が辿り着いたもの...


その絵は夜の静かな海辺の波のようでもある。

真夜中の砂漠のようでもある。

そして、月だ。月の上だ。

そこにはもはや空気もなく、無限に拡がる宇宙と大地があるだけだ。

アポロが月着陸したのと同様に、彼が辿り着いた場所、それは地球すら越えた宇宙そのものだったのかもしれない。

1999 paris france/gento/m.a.t.

marcus rothkowitz/マーカス ロスコヴィッツ/ markrothko.org
1903年ロシア ドヴィンスク生まれ
1910年にアメリカに移住
ジャクソンポロックと並ぶ戦後のアメリカを代表する抽象画の巨匠。
1970年自殺
日本では千葉県佐倉の川村記念美術館にマークロスコルームがある。
ロスコの絵の中でも相当な傑作が揃っているので、かなりオススメ

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