サッカーオリンピック代表プレビュー



サッカーの五輪代表メンバーが決まった。
小野が外れたことに関して様々な意見があるだろうけれど、UAE戦の内容を見ると、小野の出来は50%というところで、オリンピックまでにトップコンディションにもっていくのはかなり難しそうだ。
もし中田英が怪我でもして出れなくなった時に不安が残るものの、やむを得ない選択だろう。他にも良い選手は沢山いるのだ、まあ、小野ほどではないにしても。
さてメンバーは

ゴールキーパー
楢崎、都築
ディフェンス
松田、森岡、宮本、中澤、中田浩
ミッドフィルダー
三浦淳、中田英、明神、稲本、酒井、本山、中村、西
フォワード
柳沢、高原、平瀬

の18人
ちょっと意外だったのは、ゴールキーパーの都築と右ハーフの西じゃないでしょうか?
都築の方は所属のガンバ大阪がJリーグの首位を走っているということもあり、妥当といえば妥当な選択なのだけれど、トルシエは曽我端大好きだから。

ジュビロ磐田の西は小野が抜けたことと関連しているのではないかと思う。
トルシエは小野の代わりに中村が真ん中でプレーすることも出来るように、三浦淳を左サイドに加えた。でもそれだけだとバランスが変わるので、(中村が左サイドの方が左がより攻撃的だ)右サイドも突破力のある西を使ってみたかったのだろう(明神や酒井が右サイドだと右はやはり守備的だ)
他の選手はほぼ予想通りで、どの選手を組み合わせて使っても、それなりに機能しそうな好メンバーがそろった。

さて、世間では最強世代の五輪代表と騒がれているけれど、本当のところはどうなのだろう?

僕が現在の五輪代表チームの凄さを初めて垣間見たのは1997年の全日本ユース選手権の決勝(清水商対東福岡)だった。
たまたまこの試合をテレビで見ていたのだけれど、その圧倒的なレヴェルの高さにビックリしたのだった。
それは通常見慣れているJリーグの試合と比べものにならない程のレヴェルの高さのある試合だった。
もちろん、全員が高校生なので、全員が上手い訳ではない。
しかし、その中に今のJリーグの選手とは比べものにならない程のクオリティーを持った選手がいた。
そう、そこには小野や本山や金古(アントラーズ)古賀誠(マリノス)といった選手が含まれていたのである。

彼等の試合があまりにもおもしろかった為、高校サッカーにはまってしまったのだが、とにかく当時の東福岡は強かった。
左サイド、古賀と本山の繰り出すワンツー、そのスピードと精度の高さはJリーグでも見たことのないものだった。
そして古賀のフリーキックはロベルトカルロスを思い起こさせた。彼の上げるセンタリングはJリーグのどの選手よりも速く、そして正確だった。
帝京には中田浩二がいた。
帝京はあまり強くなかったけれど、彼だけは別格だった。
清水商には小野がいた。
清水も大して強くはなかったけれど、小野はうまかった。

そして、もう一度ビックリしたのが、アジアユース選手権(ワールドユースの予選ラウンド)だった。
小野や本山や古賀や中田浩のいるアジアユース(Uー19)のチームに、僕は当然のごとく期待をかけて見ていた。

その中で僕の目を引き付けたのは、右サイドと左サイドの選手の放つロングパスの正確性だった。
Jリーグでまともなサイドチェンジのロングパスを蹴れる選手をほとんど見たことがなかった僕は(当時、名波や中田英くらいなものだった)弱冠18歳位の若者が、いとも簡単に速くて強い、正確なサイドチェンジのボールを蹴り、正確なトラップをしていることに仰天したのである。

当時、4−4−2システム(フォワード2人にディフェンス、ミッドフィルダーが4人ずつのシステム)の右サイドをやっていた稲本のことは知っていたが、小笠原や酒井といった選手の名前は聞いたことがなかった。
ただ間違い無いのは、彼等が今いる日本代表の選手よりもはるかに高いレヴェルの技術、世界で通用するためになくてはならないベーシックな技術を既に身につけていることだった。

案の定、アジアユース代表の選手達は強かった。
小野の繰り出すスルーパス、トラップ、ドリブル、シュート、どれも一級品だった。
本山と古賀は相変わらず左サイドでワンツーを決めた。
試合は清雲監督の采配ミスもあり(対韓国戦)優勝出来なかったが、彼等は世界への扉をすでに開けていた。
そしてこのチームにトルシエが加わることになる。

ロングパスの正確性の重要性について。
このことがあまり重要なこととして語られることが少ないため、なぜワールドクラスになるためにこれが出来なければならないのか説明していきたい。
現在のサッカーは中盤のプレスが進んできて、ものすごくコンパクトになっているのはよく指摘されることである。

加茂元日本代表監督も口を酸っぱくしてプレスプレスと叫んでいた。
このため中盤では体力勝負の削り合い、ボールの奪い合いが進んだ。

プレッシングとは、比較的高い位置で相手にプレッシャーをかけ、ボールを奪い、ゴールへ向かう戦略である。
問題は奪った後だ。
自分がボールを奪った場所というのは、互いにプレスを掛け合っているから当然のごとく相手の選手もいっぱいいるのである。だからボールのキープが極めて難しい。
さらに相手のディフェンダーも速攻をゆるさないように、ラインを高く上げてフォワードの動きを押さえているために、せっかく出てきたボールをフォワードがキープ出来る可能性もまた極めて薄い。
プレッシングで奪ったボールの出るタイミングを見計らって、ディフェンダーの裏に飛び出し、キープ出来るフォワードなど本当に稀な存在なのだ。
おまけにプレッシャーのかかった中でフォワードに向かってジャストなタイミングで正確なパスを出すのも、やはり異常に難しい。
ならば、どうするか、その答えがサイドチェンジのロングパスなのである。

プレスが進み、コンパクト化が進んだ現代サッカーは、しかし、それ故に逆サイドがガラ空きなのである。
ここに正確なロングパスが通れば決定的なチャンスが訪れる。
さらに、これを使っていれば、逆サイドをケアするために、中盤のプレスもおろそかになっていって、余計に攻め手が拡がるのである。
このように、現代サッカーにおいてサイドチェンジのロングパスというのは極めて重要な戦略なのだけれど、これを正確に行うためには、中盤やディフェンスの選手に正確で速いロングパスを蹴る技術と、正確なトラップをする技術が、絶対に必要なのだ。

もし、このようなサイドチェンジのパスをインターセプトされると、あっという間に決定的なピンチを招いてしまう。
しかし、新世代の選手達がこの技術を身につけていた。これでやっと、まともな現代サッカーが出来る。

トルシエがディフェンスの選手に正確なフィードの技術を要求するのも、基本的にこのこと同じようなことである。
中田浩二のフィードの正確性は特に素晴らしい。試合を良く見ていると、彼からのパスで度々ビッグチャンスが訪れていることがわかる。

現代サッカーでは、ディフェンスラインからのパス一本の方が、より決定的なチャンスを生み出せるような時代に突入したのである。
そのことを本当に解っていないとトルシエの戦略は解らないと思う。
そしてその戦術、システムは新世代の選手達のしっかりとした技術があって初めて可能になったのだ。
ワールドカップ世代の技術レヴェルでは不可能だったから、A代表は最初の内、全く結果がでなかったのである。

では、彼等の基本技術がどこからきたのだろう?
それはJリーグユースの育成システムからきているようだ。
Jリーグのユースでは決められた年代に決められた技術、戦術、体力づくりを育成することが行われる。
そのために、極端に年齢の若い時に結果がでていなくても、ある年齢に達した時に総合的な力が身に付いているのである。
それと同時に、日頃、自分よりも常にうまい年上の選手と交流することによって思い上がった自己中心的な選手になることを防いでいる。

つまり、結果として器の大きい総合的な選手に育っているということなのだと思う。
一方で、藤田、名波、望月、等に代表される、幼い頃からスター街道、エリ−ト路線を歩んできた選手達は、個々の技術は高いのだが、現代サッカーの求める基礎技術が一部分、欠けているような気がする。
それと同時に、自分よりも格下の相手とやるとやたら強いが、格上の相手とやるとやたら弱いという面が多々あるのではないかと思う。

もちろん、彼等がスター選手だった、常に中心選手だったというプライドや競争意識は、ある部分は有効である。が、ある部分は明らかに足を引っ張っているように思える。

コパアメリカの時の日本代表がそうだった。
望月、藤田、名波、伊東、城、服部、相馬、彼等は上手いのだけれど、彼等だけでは何かが足りないのだ。
これらエリ−ト系の選手が約70%を占めたこの大会では、日本はほとんど為すすべのないまま、あっけなく敗れた。
このメンバーを見ているとやけに静岡県出身のメンバーが多い(清水出身)ことに気付くだろう。
一方で現五輪代表メンバーでは静岡出身は高原ただ一人。
清水のようなサッカー王国で、エリートとして歩んでいくと、短期間での成功というプレッシャーの為に、長期的なスパンでの総合的なスキルが身に付きにくい、能力がスポイルされてしまいやすいということがあるのではないか?と危惧している。

もっとも、彼等エリート選手達だって、少数なら使える。全体の30%位なら組織全体のパフォーマンスは落ちないはずである。

現五輪代表メンバーの内、かなりの部分はJリーグのユースチームの出身である。
稲本、宮本、酒井、明神、中村。
そしてほとんどの選手はユース代表として世界と戦い、結果を出し続けている。
若い内から世界と戦い、目標やモチベーションを高く持つ、彼等五輪世代はスポイルされることなく、確実に育ってきている。

世界ユース選手権の時、僕は彼等が本気で優勝するのではないのかと思っていた。
小野や高原等、少数の選手達も最初から優勝する気だったらしい。
結果として、準決勝での采配ミス、いくつかの不運の為に決勝では本来の実力を出せずに終わってしまったけれど、今度の五輪では僕だけではなく、多くのサポーターの人々が本気で優勝できると思っているのではないだろうか?
あるいは選手達の多くも。

トルシエはこう語っている。
予選リーグでブラジルと同じ組に入ったのはラッキーだった。
なぜなら、予選で当たってしまえば、決勝までブラジルとやらずに済むから。
期待しよう、そして見届けよう、若い世代の世界レヴェルの技術を。

NEXT ISSUE

BACK PASS

2002 CONTENTS

TITLE