中田英寿と情報処理能力



中田英について考えてみよう。


彼は明らかに情報処理能力に優れたタイプの選手だ。
彼が特に優れているのは、その空間図形の認識とその処理能力の高さである。
それは、彼のIQ テストの結果が満点だったことからも明かだ。
中田のセリエAでのプレーをよく見ていると、彼は特に味方が攻撃を受けている時に、常に周りの状況を頭にいれながらポジション取りをしている姿が見受けられる。
敵のディフェンスの位置取り、味方のフォワードの位置取りを常に把握しながら同時にボールを目で追っている。
だから味方がボールを奪って中田の所へボールがまわってきた時に、彼はもう既にどこにボールを置いてどこにパスを出せばいいのか解っているのだと思う。
だから後は周囲をざっと見渡してパスの位置と強さを少し修正すればいいだけの状況になっているのである。
そしてこのような場面で全くと言っていい程ボールを奪われることが無いから、味方の選手は安心して攻撃に参加できる。即ち速攻、カウンターが決まるのである。
ペルージャではこのような高速カウンターが主な攻撃パターンだったから、彼の長所は最大限に活きた。
というのも、カウンター攻撃の時には中盤の選手に対する敵のプレッシャーがあまりきつくないので、中田の持つ空間把握能力を最大限に活かすことができるのだ。


逆に中盤がコンパクトなプレスの掛け合いのような状況下では、この能力を活かしきるのは難しい。
北澤の項でも述べたように、あれこれ考えている選手や空間に対する情報処理を行っている選手よりも、何も考えずにシンプルにプレーする選手の方が速く正確に情報を処理でかるからだ。(だから世界で一番中盤のプレスが進んだセリエAを持つイタリア代表の中盤はつまらないプレーをするアスリートばかりになった)
そんなわけで、このような状況下では彼がミスパスをしたりボールを奪われたりするということは普通に起こる。

だからこうした場面では(つまりプレッシングサッカーをするのであれば)北澤や森島のようにシンプルに動き廻ってパスの受け渡しをする選手が必要で、彼等にボールが渡っている間に、中田のような考えて先の先を読むみたいな選手に時間とスペースを与えることが必須になってくる。
他にも中田の優れた点は色々あるのだけれど、例えばフィジカル面とか。

中田の持つフィジカルの強さというのは、ただ単に当たられても倒れない強さというだけではなくって、短いタイムスパン、中間のタイムスパン、長いタイムスパンの全てに渡って最善のパフォーマンスが出来るように戦略が練られ、実行に移し、鍛えられた強さであるように思える。
そしてそれは肉体の面だけではなくって、あらゆる面においてそうなのではないかと思える。
例えば、試合は90分間の長さがある。その長さの中で他の味方のプレーヤーの性格、スタイルを分析して、自分がどこでどのように休み動くか、守り攻撃するのかを常に考えながら、彼はプレーしている。
彼が後半の勝負所で鋭いラストパスを出したり、ゴールを決めたりするのは、その大事な所できちんと自分のベストの状態に持っていくための仕組みをもっているからだ。
だから彼はよく歩いているし、ボールを全く追っていない時が多くある。
これは多分、日本の多くの指導者にとってやる気のない態度と見られがちな行為だと思われるが、それが彼一流の戦略だということは彼自身の活躍やペルージャの躍進が証明している。
逆に言えば、彼が結果を出し続けることが出来たからこそ、逆風の中でも彼が彼自身でいられたということなのかもしれない。

彼に似たタイプにポルトガル代表のパウロソウザがいる。
ソウザもここぞという時に能力を発揮出来るタイプの選手である。
ユヴェントスやボルシアドルトムントが世界一に輝いたのも彼のような選手がいたからこそだろう。
シーズンを通じて怪我もなくコンスタントに力を発揮する能力というのも、1年をどのように組み立てて身体をつくり、コンディションを維持していくか綿密に組み立てられ、しかも状況によって修正が行われているからだろう。


名波も中田と同じように沢山の情報を処理し、展開を創るゲームメイカーだが、彼にはムラがある、そして後半バテることが多い。
これは、情報処理が多くなって重くなる=スピードが鈍るということに、ガンバりすぎて身体が疲れる、鈍るということが重なり、後一歩身体が前に出れば楽に処理出来るボールをコントロールするのに余計な体力を使ったり、パスミスをして逆襲されてさらに体力を使ったりで、どんどん負の循環にはまりこんでしまうためと思われる。
そのため、彼は後半で途中交代させた方がよい、又、長期間使う時は必ず休みをいれなければならない。
というのも、彼が自分自身のフィジカルを様々なタイムスパンに合わせてきちんとコントロールする仕組みを持っていないからなのだと思う。
中田と名波の実力の一番大きな違いは、実はその部分にあるのではないかと思う。
つまり、自己や非自己の管理、組織能力の違いだ。

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