lands end.aran islands/最果ての島へ... アラン諸島への旅
PHOTO STORY/ALAN ISLANDS IRELAND
PHOTO+TEXT/gento.m.a.t 1999
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アラン諸島へ行く日の朝は、雨が降っていた。
それは、霧とも雨とも判断がつかないような、限りなく細かい粒子となって 僕の肌にはりついた。
冷たい雨を避けるように身をかたくしながら濡れたコンクリートの道を歩く。
いつの間にか僕は、巨大なコンテナの立ち並ぶ一角に迷い込んでいた。
こんな人気の無い辺鄙な場所にフェリ-乗り場がある訳が無い。
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ぼくは元来た道をもどった。
海岸の堤防沿いに進むと、やがて小さなフェリ−乗り場が見えてきた。
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フェリ−は埠頭にやってきていた。
細いタラップを降りて船内に入ると、まだ人はまばらにしかいなかった。
僕は目についた席にすわり、目をとじた。
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気がつくと席はほぼ満席になっていて、船は島へ向かって出航する。
たれこめた雲と、目に見えない雨粒のせいで、窓ガラスはくもり、自分達がどこにいるのかわからないような気がした。
夏なのに船内はセ−タ−やアノラックを着た人が目につく。ここはまぎれもなく北の海なのだ。
僕は北の海の男達を思った。
毎日 冷たい海へ向かう男達、彼らはこの空気を一生身にまとい海に向かい続けるのだ。
僕は彼らの心を、彼らの家族の心を想像する。
あるいは、ノアの方船について...
暗く冷たい海へ向かう 木の葉のような小さな船に乗って、まだ見ぬ楽園へ向かう人々。もちろん、僕には帰る場所がある。これは一時的な旅に過ぎない。
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港に着いても、重く陰鬱な空気感は同じだった。 港の潮の臭い...
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僕は、港のそばの岬にある貸し自転車屋でMTBを借りて、目的の地へむかった。-古代の人々が向かったであろう西の果ての崖へ...
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やがて二手に分かれた道を左手に行くと、道はだんだんと登り坂になった。
いつ雨が強くなるかわからない、先を急ぐ僕の足は、自然と力がこもる。
これは本当に雨なのだろうか??雨粒は見えないのに、衣服だけはどんどん濡れていってしまう。圧倒的な湿度だった。
そして風を切って走るナイロンのシャツの表面だけは、見る間に乾いてゆく。中に着たTシャツだけが濡れていった。
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それにしても貧しい土地だった。
木はほとんど無く、かろうじて残る土を守るために果てしなく石の柵を積み重ねた大地。
そこには草以外のものは生えないのだ。
そんな中で人々は畑を耕し、ジャガイモを植え、数頭の牛を飼って、人々は生活をする。
この石柵に囲まれたわずかな草地で、牛達は何を思い、何を感じて生きているのだろう??永遠に出る事の無い囲いの中で...
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古代にやって来た人達は、この地を去った。生活の跡だけを残して...
彼らは、彼らが夢見たこの場所で暮らしてゆくことが出来なかったのだろうか??そして、彼らはどこへ行ってしまったのだろう??
彼らが去った後には、ケルトの人々がこの島へやって来た。古代人が暮らしてゆくことのできなかったこの島で、ケルトの人々は、貧しいながらも暮らしてゆくことをえらんだ。
彼らはなぜこの土地にとどまったのだろう??何が、彼らをこの土地にとどまらせたのだろう??
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今では、島の生活を支えているのは観光だ。
ドンエンガスの崖の入口には、みやげ物屋が3軒並んでいた。そして、ツア−バス(といっても、1BOXカ−程度のものだが)に乗ってやって来る観光客。
そして、入場料。入場料をとるのか?ここは。
そこは、伊豆半島の先端の石廊岬に限りなく似ていた。最果ての観光地...
もちろん、辺りの自然はもっと荒涼としていたが、そのかもしだす雰囲気は、まぎれもなく石廊岬だった。
ドンエンガスのがけも石廊岬なのだろうか?
微かな疑念を抱きつつ、僕は崖へ向かう小道を進んだ。
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小道は、石だらけの草地をゆるやかに登っていた。
やがて遠くの方に、霧に包まれた断崖の一部が見えてくる。
鳥肌がたった。
しかし、崖の近くまで行った僕は、やはり、その姿に少々失望することになる。
そこは、世界の果てというよりは、高くて、ちょっと怖いただの崖のように見えた。
人々は、腹這いになって崖の下を覗いている。一様にみんな腰がひけている。
イタリア人の集団が目についた。
イタリア人に地の果て感はまるで無い。いつも、ひっきりなしに楽しそうにしゃべっているからだ。
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いつの間にか 空からは陽が射しはじめていた。人々は記念撮影をしていた。
平和な午後だった。
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人には、様々な生き方がある。
あるものは世界の果てを求め、あるものは記念撮影を求める。
あるものは自力でそこにたどり着き、あるものはツア−バスに乗ってやって来る。
荒れた石だらけの大地には、小さな花々が咲いている。遠くにアラン諸島の島々が見えてくる。
そして僕は理解する。彼らがここにとどまった理由を...
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雨降りの後には、必ず太陽が顔をのぞかせ、荒れ果てた大地にも花が咲く。だからこそ、男達は海に出て、女達はセ−タ−を編んで男達の帰りを待ったのだと。
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そのセ−タ−は、今では島一番の産業となっている。
アランセ−タ−が人々をひきつけたのは、当然のことだった。生命をかけた男達の帰りを待ち、荒れた大地のわずかな収穫を待ちながら編まれたセ−タ−には、単なる寒さ除けではない、特別な思いがこめられたから、セ−タ−の模様は呪術的な意味を持ち、海で死んだ男達の認識票になった。
それは、北の島のファンタジ−がこめられたものなのだ。
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今では、島はすっかり晴れている。
ゆったりとした時間が流れている。
帰り道、見渡す限り一直線の道路で、クワを持った老人がふりかえると、はにかみながらニッコリと笑う。僕は手をふりながら通り過ぎる。
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船着き場に着くと、船はまだ来ていない。
大勢の人と船を待つ。
予定より30分遅れてやって来た船に乗って、島を訪れた人々は帰ってゆく。
アラン諸島の島々が遠ざかってゆく。
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なぜだか、船にいる人々は、行きの表情よりも一様に明るくなっているように見える。
なぜなのだろう??島には、人々を楽しくさせる、そんな魔法がなぜだか眠っていて、人々は繰り返し訪れてしまう。
そして、魔法の島から、元来た場所にたどり着いた時、なぜか元居た場所は、初めに知っているよりも全然かがやいて見える。
ゴ−ルウェイの港には、光が差込み、水面は家々や船の色を反射して、輝いている。
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