RONDA/ロンダ 崖の上の白い街


 

スペイン南部アンダルシアの白い街、ロンダの駅前に立つとなんだか興ざめなんだけれど、駅から数分歩いて見つけたこぎれいなホテル(しかも安い、一人なのに大きなツインルームに泊まれて一泊2500円。もちろん値切ったのだけれど...でも、次の日にはこのホテルには泊まれないはめになるのだが...その話しはそのうちに)に荷をおろし、旧市街へ向かって歩き出すと、すぐにこの街の魅力のとりこになっている。


この街は深い谷(100メートルはありそう!)を挟んで、新市街と旧市街が3本の魅力的な橋を通じて分かれて拡がっている。
くらくらするほど熱いし、くらくらするほど日差しが強いのだけれど、なぜだか僕は街の隅々まで歩き回る。
そうせずにはいられないのだ。
街が歩き回りたくなるように作られているから。
ゆく先々に延びた魅力的な脇道や坂道は、アンダルシアの強烈な日差しを受けて、影をつくり、日向をつくり、人々を誘い出す。
この先にいったい何があるのだろう?
大抵は何もないのだけれど、でも、そこには確かに普遍的な人々を誘い出す何かが存在しているように感じられる。
未知への冒険、居心地の良い空間、肌触り。
歩き続ける、時々、走ってみたりする。


夕方までそうして歩き回り、目に付いたレストランのテラスに座り、夕食を食べる。
今日の夕食は舌平目のグリル。
小さな舌平目が3尾、大きな皿の上に載っている。
とてもおいしい。
猫が足下に寄ってくる。
皿に飛びつきそうな勢いだ、よっぽど食べたいのだろう。
食べ終わった魚の頭と骨を投げてやると、むしゃぶりついている。
もの凄くうまそうに食べているので、試しに他の食べ物も投げてやったら、それには見向きもせずに、骨だけになった舌平目にしゃぶりついたままだ。
きっと毎日このレストランで舌平目を狙っているグルメな猫なのだろう。

夕食を終えるとまたぶらぶらと散歩がしたくなる。
夕暮れになって気温が下がり、気持ちの良い風が出てくるようになると、街中の人が外に出てくるみたいだ。
老人が家の外に椅子を持ち出して、立ち話ならぬ座り話をしている。
広場にはもっと多くの人々がやってきている。
アイスクリームを売る屋台に人だかりが出来ていて、大人も子供もアイスを頬張っている。
僕は崖の縁まで行って、暮れていくアンダルシアの大地を眺める。
僕はそこで不思議な感覚におそわれる。

ロンダの崖の上から眺めていると、空を飛べるような気になる。

いや、飛んでいるような気がするのだろうか?

昼の強烈な日差しと暑さのせいで暖められた大地は上昇気流を産み、心地の良い風を運んでいる。
長い間旅をしてきて、歩き回り、疲れて火照った肌にその風は染み込んで行く。
細胞と風が一体になるような不思議に心地のよい感じ。

僕は眺め続ける。

遠くの霞んだ山並み、ゆるやかに続く大地、険しい谷、微妙にカーブした道。
道を行く車のスピードも、まるで歩いているみたいだ。
アリのように小さく見える車。
昔どこかで見た映画のような風景が拡がっている。

同じ場所で同じ所をこんなに長い時間眺め続けたのは、いったいどれくらい振りだろう?
鳥達はもしかしたらこの風のために空を飛ぶようになったのだろうか?
街はこんな夕暮れの為に存在しているのだろうか?

きっとアンダルシアにはまた来るだろう。

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