soliton/ソリトン



ソリトンという波があるのを知っているだろうか?

これはなんと自己組織化する波なのだ。
台風の季節って、台風が何千キロも離れたフィリピン沖とかにあっても海岸に大きなうねりが押し寄せるよね。
でも、よく考えるとこれはすごくおかしな話だ。

波なんてものは普通、真っ直ぐ進むわけではなくって、互いに干渉しあってすぐに弱くなってしまう。
それに水の抵抗を受けて、すぐに力が弱くなるはずだ。

実際に僕等がふつう目にする風波は、そのようにしてすぐに消えてしまう。
それなのになぜ、台風の波は何千キロも離れた沖合から力を落とさずにやってくるのか?
その答えが、自己組織化する波、ソリトンであることを知って僕はたまげた。
自己組織化って、生物でもなんでもない波が、あの水の塊にすぎない波が自己組織化するんかい!
またもや世界観が変わってしまうのであった。

ソリトンは19世紀に発見されて(用水路に波が何キロも上ってきたのに驚いたことから研究が進んだらしい)今では厳密に数学、方程式でソリトンの解が見つかっている。
僕は数学があまりにも苦手なため厳密に説明できないけれど、ごくカンタンに言って、ソリトンは海の深さよりも波の横幅の方が大きい時に限って創られるらしい。

深さよりも幅の少ない波は、力学的に打ち消し合いすぐに消えてしまう。
一方、深さよりも幅の大きな、強いエネルギーを持った波は、様々な力学的な相互作用の結果、自己組織化しながら、その波の形を保って進み続けるのである。

ここまできて始めて、ラジオの長波(FM.AM.)よりも短波放送の方が遠くまで届く理由がはっきりと解ったのであった。
波長が短い方がソリトンに成りやすいのだ。

で、こうして考えていくと、この仕組みはいろいろな所に隠されているような気がしてくる。
例えば、物事を深く知らない人の方が結論を出しやすいとか、そうじゃないでしょうか?
競馬をやっていると解るのだけれど、競馬は深く知れば知るほど、段々当たらなくなっていくような気がしていた。
ビギナーズラックというのはやはり本当にあって、それは物事の奥深さを知らないが故に、ちょっとした知識の幅でも答えが出せるということなのではないだろうか?

僕も、世の中の奥深さについて掘り下げて考え、勉強するようになってから10年位たった。
ようやく最近、それを言語として把握できるようになってきた。
それまでは奥深いなと思っても、奥深いだけで、何がなんだか解らなかった。
正確な言葉を話そうと思えば思う程、それは難しくなる。
それはつまり、深さよりも幅が上回っていなかった為だ。

今、世界に関する知識は以前よりも考えられない程深くなった。
僕等は、例えば、肉体の中の細胞の中の遺伝子や染色体について、原子の中の分子の中のクォークなんていう所まで分解して知るということを学んだ。
でも、物事を深く知れば知る程、それが持っている本当の意味は解らなくなって、答えは出しにくくなる。
恐らく、現在はそういう時代なのだと思う。

正義や悪やどれを選択するかなんていうものは、考えれば考えるほど難しい。
奥深くなった知識の本質や意味を探る時、僕等はその深さを上回る知識や体験の幅を持たなければならないのではないだろうか?
そして、横に延びたネットワークこそが世界の新たなパラダイムに移行する鍵なのかもしれない。
それは、これから人類がカクトクする智のソリトンである。

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