02.そして詩と芸術と文化がもたらす前衛。
ベルギー編


ベルギー第二の都市で、ファッションの街としてその名を知られるアントワープを訪れた人は大抵がっかりする。
大手のチェーン店が立ち並ぶ目抜き通りと、あまり美しいとは言えない駅周辺と、目を見張るというほどでもない旧市街の街並み。
表層的に見たら簡単に通り過ぎていってしまいそうな地方の街だ。

ファッションの街と言っても、ミラノやパリのメインストリートのようなきらびやかさとは無縁で、アントワープファッションの中心地ともいえるモードナシーやデザイナーズショップが並ぶナショナルストラートにしても、えっここが!?みたいな貧相な(すいません)どこにでもありそうな通りだったりする。(ちなみに当店のある五日市街道は、このナショナルストラートの感じに近いのです。貧相で何もなさそうなところが 笑)



表層的には何もなさそうだけど、アントワープの街がとてつもなく凄いのは事実です。
それは一言で言えば、「積み重ねられた文化や芸術の奥行きと、それを支える人々の熱さ」のようなもので、それは全く表層的では無いものです。

油絵と遠近法という絵画における最大の技術革新を成し遂げたファンアイク等による北方ルネッサンスの静謐な絵画達。庶民の日常と神話的世界を融合させたブリューゲル。
バロックの至宝ルーベンス。

休日にふらりと中古家具屋を訪ねると、そこに眠る日本や中国、アジアのレヴェルの高い骨董品の山にびっくりしたり、殆ど地元の作家だけの企画展で運営していながら、毎回外れの無い展示でわくわくと楽しませてくれるMUHKA(現代美術館)があったり、町中の普通のレストランがやけに美味しかったり...
かつて、世界とヨーロッパを結ぶ最も重要な港街として栄えたという歴史的経緯が、そんな様々なことを通して感じることが出来るのです。


モードやファッションは、うつろいやすいもの、移り変わるもの、変化するもの、表層的なもの、記号やトレンド等々、毎年様々な流行やトレンドの商品が作られて消費されていく言わば「消費文化」です。
けれど、多くのアントワープのデザイナーのやっているクリエイションは、表層的なものでは無く、もっと深く文化や芸術や精神性から汲み上げた「ただのモードやファッションではない衣服なのだ」と思えるものが多いのです。


アントワープの街がファッションの街として知られることになったのは、1980年代初めににアントワープ6と呼ばれるデザイナー達(すなわち、ANN DEMEUL MEESTER, DIRK BIKKENBERG, DIRK VANSAENE, DRIES VAN NOTEN, MARINAYEE, WALTER VAN BEIRENDONCKの6人),がパリで共同のショーを行ってからです。

彼等は日本人デザイナーのヨウジヤマモトや川久保玲(コムデギャルソン)に刺激を受けて、旧態依然としたパリのモード界に新しい風を吹き込みました。
そして、その後はアントワープ王立アカデミーから様々なスターデザイナーが巣立っていき、やがてファッションの世界でブレイクしています。



僕が初めてアントワープを訪れたのは1996年だったと思う。
もう殆ど記憶に残ってないなー。
でも、まだWALTER もSTEPHAN SCHNEIDERも無く、LOUIS やCOCODORILOといったセレクトショップと DRIES VAN NOTENに ,今は無きLIEVE VAN GORPのショップがあるくらいだったと思う。

もっとも、僕もその頃はモードを買う余裕なんて無くて、A.P.CやANVERSやLAUNDRY INDUSTRYのようなシックでミニマルな日常服を買っていたのだが。

むしろ、最初のうちは、とにかくアートに夢中で、ノートルダム大寺院のルーベンスの「キリストの降架」やブリューゲル、ファンアイク、ヴァンダイク、ちょっと足を伸ばしてブリュッセルやオステンドの美術館でマグリットにデルヴォーにヒロエニムスボッシュ
等。そして極めつけは、アムステルダムやデンハーグにあるレンブラントとフェルメールに夢中だった。というか、今でも夢中だけど。


そんなわけでベルギーやオランダに通っているうちに段々とファッションも真剣に見だしたのだった。すると、これがとんでもなくカッコイイことが判ってきた。
思えば1997年から2000年くらいのシーズンというのは、RAF SIMONS , ANN DEMEUL MEESTER, DIRK SCHONBERGER, LIEVE VAN GORP等がメンズファッションの最上級の傑作を多く創り上げた年だった。
当時のラフシモンズのジャケット等をたまにお客さんが着てくると、めまいがするほど美しかったりする。
レディースもA.F.VANDEVORST, VERONIQUE BRANQUINHO,
MARTIN MARGIELA等が素晴らしいコレクションを発表した。

パリの今では観光名所になってしまった感のあるセレクトショップのコレットでも、あの場所を有名にしたのは他ならぬアントワープのデザイナー、ラフシモンズやブランキーノの衣服だったと言えると思う。(もちろん、現JIL SANDERディレクターのヴクミロービッチのバイイング、キュレーションのセンスも大きかった訳だが)


彼等が素晴らしいコレクションを発表したのは様々な要素が絡んでいると思うけれども、芸術がその一端を担っているのは間違いない。

1987年に美術館として改装されたMUHKA(現代美術館)は、世界一先鋭的でおもしろい展示を行う美術館の一つだと思う。
今まで見た中で一番衝撃的だったのは、天井が高い白くて広い空間に赤い靴下が1足だけ展示されているもの!!
パーマネントコレクションはほとんど無く、地元の芸術家による企画展が殆どのこの美術館。行ってハズレだと思った記憶が殆ど無い。
それが、ほとんど誰も名前すら聞いたことのないアーティストによるものなのだからスゴイ。
この美術館の展示とアントワープのファッションは確実にある種相似的なものを持っていると思う。

芸術に対する姿勢というか、サブカルチャーに影響されたサブカルチャーでは無くて、メインカルチャーやその国本来が持っている資質に裏打ちされた、それでいて伝統的でない、あるものを壊して前へ進んでいく前衛的な姿勢を持っているというのかな?
作品そのものが詩であり生き方だったり。

それは例えばルイヴィトンが村上隆の絵のついたバッグを作りました。私はアートに貢献しています、お洒落です。というのとは決定的に違う何かを持っていると思う。



日本ではサブカルチャー(漫画や映画やポップミュージック等)が既にメインカルチャーになっている。
優れたサブカルチャー(例えば宮崎駿のアニメ等)は、メインカルチャー(例えば、優れた絵や建物や街や自然や科学など)が元にしっかりと生きていると思う。
だから素晴らしいのだろう。
けれど、サブカルチャーに影響を受けて憧れて作ったサブカルチャーは、本質の部分が薄まってしまっていて、どうにもおもしろくない気がする。

日本の多くのファッションを見ていると、悪くないのだけれど、どうもずっしりと心に響くものが少ないように思う。
それは、きっと僕等が目まぐるしく変わる流行と情報の洪水の中で、本当にしっかりとした「自分という存在」や「ものごとの本質」に辿り着くのが困難になってしまったせいだと思う。


日本人が優れていないわけでは全然ないのだと思います。
ただ情報があり過ぎて何を選択していいのか判らなくなっていたり、時間が足りなかったり、内輪の評価を気にしすぎるから、みんな同じ方向を向いてしまったりしているのだと思うのです。
その証拠に海外に出ていった日本のデザイナー達は素晴らしい作品を作っている人が少なからず居ます。
それはきっと、他人に真の評価を受けるには、自分が本当に優れているのはどの部分なのか?どこで勝負すべきなのか?ということを考えざるを得ないということと、優れたメインカルチャーに触れる機会が多くなるというあたりにあるのだと思います。

もちろん、日本に居ても、そこには素晴らしい文化や自然や芸術があって、その気になりさえすれば、もっと多くのことを学ぶことは充分可能でしょう。
それは、何も、ものを作る側だけの問題だけでは無くって、ものを売る側やものを買う側の課題でもあるのだと思います。

売る側や買う側が、高いハードルを作れば、作り手側は、もっと心に響くものを作らざるを得ないというわけです。
そして、そういう「売る=買う=作る」の、うまい循環が産まれた時、僕等はもっと文化的で芸術的なことやものを享受できるのだと思います。



そんなわけで、当店はINTERACTIVE CLOTHING(双方向的衣服)で、ウェブはINTERACTIVE WALLPAPER PROJECT(相互作用する壁紙)という名前になりました。

これから、もっと心に響く品を扱っていきたいと考えておりますので、ぜひお店に遊びにきてみて下さい。

by gento.m.a.t

INTERACTIVE CLOTHING
contemporary art and design
www.int-wp.net
1F 4-25-8 KICHIJYOJI HONCHYO MUSASHINO CITY TOKYO JAPAN
TEL/FAX/0422-20-8101 e-mail/gento@int-wp.net
OPEN 11:30-13:30,14:30-20:00 FRIDAY 17:00-22:00
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重要!!移転しました

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